準備はいいかい?
                 〜789女子高生シリーズ

          *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
           789女子高生設定をお借りしました。
 


 壁という壁に、作り付けの棚。そしてその全てをうめて、立てかけられたり積まれたりしているのは、足元に立てれば顎まで来ようという大きな平たい芯に巻き付けられた、様々な布たちで。スーツに使うようなしっかりした織り目の、質感に味のある厚手のウールから、カラフルな図柄も軽快な木綿地のプリント地、つややかなサテンに真珠のような光沢のレーヨンにと。素材のみならず、色柄も多彩な生地がこれでもかと並んでいる棚を、うわ〜と感心しもって眺めやっておれば、

 「お待たせしました、お嬢様がた。」

 それはにこやかに現れたのが、妙齢のご婦人で。微妙に年齢不詳という観のある、華やかな美貌の彼女は、この、七郎次の行きつけだというブティックの、オーナー兼デザイナーであるそうで。

 『えと、何て言うんでしたっけ。』
 『??』
 『何が?』
 『ほら、えっと…』

 小首を傾げた平八が並べたのが、

 『ご贔屓でもなくて、お得意先ってのもおかしいか。』
 『掛かり付け』
 『それは兵庫せんせえみたいな、お医者様限定。』

 正解は“出入りの”、若しくは“お抱えの”と、言いたかったらしい平八なのへ、

 『それはどうだろ。』

 当の七郎次がおややと小首を傾げてしまい。だって、礼服とかイブニングとか、親掛かりで何か仕立てるって時は別のお店に行くことになってるしと。あくまでも七郎次だけがご贔屓にしているお店なのよとの説明の下、いつもの仲良し三人娘が足を運んだのは、それでもなかなかに格もあろう、品のいい落ち着きに満ちたブティックで。大通りに面した立地も良く、ショーウィンドウに飾られた秋の装いは、サイケなプリントを多用した掻っ飛んだ最先端でもなければ、鋲が煌くアウトサイダー風ミリタリルックでもなくの。ニューヨークスタイルとでもいうのだろか、きりりと冴えたジャケットにミニ丈のニットとスキニー風パンツとか、スクエアにカットされたカットソーの襟元を、シルクのストールで引き締めの。渋い色目のデニムと、足首をくしゅくしゅさせたブーツで若々しく和らげのと、若向けながらもどこか落ち着きのある装いを提供している、セレブ系お嬢様ご用達の、カジュアルモードのお店というところかと。

 “まま、最近のシチさんなら、
  ワンシーズン限定の流行服も気にせず買っちゃう人ではありますが。”

 そして、パンツがちらりする極短丈へ改造しちゃうんですのね。(苦笑) それはともかく、

 「デザインを見せていただいて、
  一応の概要をまとめたのでご覧いただけますか?」

 気さくそうな笑み浮かべ、さあさこちらへとオーナーさんが三人を導いたのがこのお部屋。お仕立ての注文を受けての、細かな打ち合わせや採寸だのに使う間だそうで、デスクに据えてあったPCのモニター画面には、くるりと立体的に再構成されたものらしき、先日 煮詰めた制服もどきのコスチュームが呼び出されていて。

 「うあ、かわいいvv」
 「ホントだ、こうなるんだ。」
 「〜〜〜。///////」

 ベレー帽をかぶったお人形が、ストールと紐の下がったメダリオン・ブローチつきの、スコットランドの民族衣装風のジャケットに、タータンチェックのミニスカート、編み上げのミディブーツを履いた いで立ちで、背中や横からの図も見えるよう、ゆっくりと回っており。コンセプトというのも大仰ながら、バンド演奏の舞台用コスチュームだという話はしてあったので。袖や肩は遊びがあり過ぎても何ですが、だからってあんまり窮屈じゃあ、腕の動きに支障も出ましょうし…とか。襟はブレザー調にしますか? 詰襟というのもシャープな凛々しさが増しません? そんな風に改良の余地がある部分を指摘して下さるので、

 「そうだよね、ギターを抱えての舞台なんだし。」
 「久蔵殿はキーボードとバイオリンですものね。
  腕の自由が利かないと困るんじゃあ?」
 「……。(頷、頷)」

 それはまた華やかなステージのようですわねと、にっこり微笑ったお姉様。シックなツーピース姿でいらした、そのジャケットのポッケからメジャーを取り出すと、

 「失礼しますね。」

 メジャーは自分の腕のほうへと添わせての、さささっと久蔵の背中や肩、腕と大まかに計って見せてから。傍らのポールスタンドへ何着かかかっていたジャケットの中から一着取り出し、どうぞと差し出して下さって。素直に受け取ると、ちょっぴり厚みのあるバックスキンのベストを脱いでから、それを羽織った久蔵が、肩を回し、それからおもむろに左腕を伸ばすと、その上のひじの裏へ右の腕を交差させ、バイオリンの演奏を再現し。

 「…………うん。」
 「ちょうどいいのね?」

 腕同士を交差さすほど近づけ合っても、付け根や背中が堅さから引き吊れるでなし。そうかといって緩すぎてのこと肩が落ちるでなし、と。具合がいいのを、言葉少なにうんうんと頷いて見せて伝える久蔵で。

 「このジャケットと基本の型は同じ縫製になりますので、
  腕回りや肩のあそびは、同じほどの連動になりますわ。」

 いわゆる礼服の定型からは少々外れた型になるのだそうで、

 「勿論、礼装やダンスの衣装やともなれば、
  型通りに仕立ててこその機能美がありますので、
  そうそう羽目を外したりはしませんが。」

 くすすと微笑ったお姉様としては、若い層は なかなかそんな堅苦しさに馴染めまいという点、無視しないでの把握した上で。独自の改良をほどこした“カジュアルフォーマル”を研究中なのだそうで。畏まるばかりじゃあない、ステージを跳ね回るバンド演奏用のコスチュームというのは、そこへの検証にも打ってつけなんだそうで。

 「それでは、このデザインで仕立て始めますね?」

 勿論のこと、仕上がってからでも修整利かせられますので、と。にっこり微笑っての太鼓判を押して下さり、それでは採寸と参りましょうかと、助手のお姉さんも呼ばれたが、

 「あ、そうそう。あと4人いるのでその分は。」

 七郎次が膝までありそうな長丈のベストのポッケから取り出したのが、ちょっとした覚え書き用のメモ帳で。そこに綴られてあったのは、下級生4人の克明な採寸表。

 「え、こんなに計るんですか?」
 「当たり前ですよ、ヘイさん。」

 だってこうまで身に沿ったジャケットなんですものと、背中だけでも4カ所ほどもの幅を測ってある表に、うあぁとついつい声を上げ、

 「……?」
 「あ、ええ。アタシはほら、自分でもリメイクとかやってますから。」

 久蔵が小首を傾げたのは、お針子でもない七郎次がどうして、採寸に要る箇所を知っていたのかへ、だったが。平八が内心で呟いていたように、この白百合のお嬢様、普段着るものはそこいらのファストファッションのお店などでも買っており、それへと自分の手で今時風の改良を入れなさるほどに器用でもおいで。ケーキを焼くのでは久蔵に後れを取ったが、こちらでの器用さじゃあ負けていませんとの、面目躍如というところか。

 「さあさ、それでは皆様の寸法も計りましょうねvv」
 「うう、またまたサイズが大きくなってそうな予感が。」
 「袖丈…。」

 育ち盛りなことが、微妙に悩みのタネでもあるお年頃の皆様なので。身体検査並みに憂鬱そうな気配も滲ませつつ、それでも上着を取っての、シャツやスムースニットという薄着になれば。二人のお姉様がたが、それはそれは手際良く、細やかなあちこちを計ってゆく。

 “あちゃあ、やっぱり大きくなってる。”
 “…何すりゃあ、そうも育つんでしょか。”
 “あんまり伸びると…。”

 各々の内心の呟きが、隠し切れる人たちじゃあないところが、ままご愛嬌というところかと。(苦笑)




      ◇◇


 衣装の採寸も終え、後は月末に迫った学園祭の最終日に催される“シークレットライブ”に向けて、各自が積んで来た楽器練習を、他の面々との総合練習の場でご披露するまでとなったのではあるが。

 「で? 表向きはどう誤魔化すんですか?」
 「…、…、…。(頷、頷、頷)」

 7着もあるのに、週末には仮縫いまでこぎつけますのでとの確約をして下さったブティックから、微妙にドキドキしつつも立ち去っての さて。一息入れましょうと、最寄り駅の上、小じゃれた喫茶店があったのへ入ってから、愛らしい額を寄せ合ったお嬢さんたちであったのだが、

 「何でアタシに訊きますかね、二人とも。」
 「だって、私たちのリーダーですし。」
 「な…っ☆」

 しゃあしゃあと言ってのけたのは平八だったが、その傍らで久蔵までもが“うんうん”と頷いているとあっては、

 「いつの間にそういうことになってるんですか?」
 「しっかり者だし、切れ者だし。」
 「出席簿でも。」
 「あ。久蔵の言い分は却下。」

 だって、苗字はアタシのせいじゃないでしょがと、ちょっぴり恨めしそうな視線を向ければ。

 「〜〜〜。」

 反省しましたという意味か、自分がオーダーしたカシスムースの最初の1口、銀のスプーンに掬ってどうぞと差し出す謙虚さよ。淡い紫のムースを遠慮なく あ〜んといただいた、金髪碧眼のお嬢様。とはいえ、それでは終わらせず、自分の前にあったミルクレープの一角をフォークで掬うと、お返しにと久蔵へ差し出してりゃあ世話はなく。そんな仲直りを見届けてから、

 「ともあれ、来週からいよいよの短縮授業で、準備もあれこれと本格化しますしね。」

 だからこそ、内緒の催しへの口裏合わせはどうしましょうかと、話題を元に戻した平八へ、

 「幸い、私たちはクラスや学年の準備委員会には関わっていませんしね。」

 五月の女王に選ばれこそしたが、学園祭の女王は三年生から選ばれるのが通例なので、まずは関係ないと安堵して。クラスの出し物は…学年に1店しか開けない模擬店の抽選に何と委員長が当たってしまったため、皆様待望の紅茶とケーキのお店を展開することとなっているのだが。何と申しましょうか、そこがお嬢様学校ならではなのか、

 『では、ウチの自慢のアプリコットタルトを持って来ますわ。』
 『じゃあ、私はシュークリームを。』
 『まあ、◇◇様のお抱えシェフと言ったら、あの○○さんでしょう?』
 『素敵だわ、皇国ホテルのパティシェチーフでいらしたのよね?』

 おいおい、みんなでお茶会のレベルかいと。突っ込む人がいないのへ、どれほどもどかしい想いをした三人娘であったことか。その辺の誤解は何とか担任の先生が解いての、それではと役割配分を振り分けたおり、

 『草野さん、三木さん、林田さんは、当日のウエイトレスを是非vv』

  『はい?』×3

 『そうよそうだわvv』
 『お3人が笑顔でお迎えして下されば、
  どれほどのお客様が訪のうてくださることか。』
 『それに、古風な衣装もきっと映えますわよ?』
 『メイドさん風の愛らしいコスチュームを用意しますわね。』

 準備するケーキとお茶は各自の持ち寄り。設営はきっと、テーブルクロスや花器に茶器の支度くらいのものだろと来て、他の学校じゃどうかは知らぬが、この女学園だと一番準備が要らない出し物でもあり、その上、当日に張り切っていただくので…なんて、図らずも“隠し球扱い”をされたので。その間に合同練習の場へ飛んでっても、さほどの迷惑は掛けなさそうなのだが、それにしたって、何処へ行くのか何をしているのかと問われたら、それなりに応じねばならない。

 「…判りました。そうですねぇ。」

 これまでのあれやこれやへ、何も自分ばかりがあれこれ案じて来た訳でもないのにと、そこへはぶつくさ言いつつも。こうまでワクワクと頼られてるんじゃあしょうがない。

 「どうせ、彼女らと行動を共にするのは誤魔化しようがないのですし。
  あのころと同様、ローディーをするのだということにしませんか?」

 バンドガールズとの縁が出来、彼女らを見守ることとなった折も、放ってはおけぬと傍にいるための肩書にしたのが“ローディー”だ。本来の意味合いはマネージャーと付き人を合体させたようなもので、演奏に専念させるため、御用があるなら代わりに聞きましょ、そろそろ休憩ですよ、はい飲み物、と。お世話を焼いたり伝言係を務めたり、それを今回もこなすのだということにすれば…。

 「そっか。特に無理な言い繕いにはなりませんね。」
 「練習にはウチの防音室を。」

 付け足された久蔵からの申し出に、

 「おおお、それだと尚更、
  お世話係をというのは無理がなくって丁度いいじゃないですか。」

 一気に丸く収まって、それじゃあ連絡しとくからと、携帯を取り出し、メールを打つ平八であり。色々と決まったことが増えてくと、それに比例してああもう間近なんですねとの実感、涌いた感がひとしおで。

 “けど、アタシが通ってた市立の中学じゃあ、
  もっと前からわいわいしてたけど。”

 お嬢様学校は違うんだなぁなんて、この顔触れに限らずとも、一番由緒正しい華族様の末裔の御令嬢がそんな言い方をする学園祭って一体。(苦笑) 衣装の方も、段取りも決まったとの安堵から、う〜んと背伸びをし、さてさてとお顔を見合わせたお嬢様がた。誰からともなくお顔を見合わせ、訊こうか訊くまいかと伺ってたのも束の間で、

 「あのね、」
 「あのさ、」
 「………。」

 お顔を見合わせ、今度は譲り合いかかり。だがだが、こうなりゃ目星もついていてのくすすと吹き出し合うと、一番の気掛かりをご披露し合う彼女らで。

 「ゴロさんは観に来てくれるそうですよ? 私にはちと喜べないことでもありますが。」

  「まだ言ってる。
(笑)
  「……vv(頷、頷)」

 「兵庫は、急患が入らぬ限り。」

  「何か久蔵が念じたら楽勝なんじゃあ。」
  「アタシもそう思う。」

 「勘兵衛様は…………。」

  「あ、」
  「〜〜〜。」

 警視庁捜査一課の島田勘兵衛と言えば、顎鬚に背中まで伸ばした蓬髪という怪しい風体のくせに
(おいおい)、結構な壮年でありながら いまだに現場であてにされている敏腕警部補殿。特殊だったり複雑だったりする事案をこつこつと追う根気の要る作業に当たっていたかと思えば、突発的、且つ慎重な対処を求められる事件が起きると必ず、非番でも呼び出されるのは必定という、凄腕なればこそ厄介な身のお人だったりし。ほんの数日先の予定さえ立てられないのが現状なのは、平八や久蔵も重々承知で。ちょっぴり肩を落とした白百合さんだったのへは、微妙な空気になりかかったものの。BGMのモーツァルトの助けなんか要らぬと、久蔵がその白い手でお友達の手を握り、

 「久蔵?」
 「任せろ。」

 何だ何だ、三木財閥で戒厳令を張るか、それともそれこそ何かへ祈る気かと。この段階では何のことやらなレベルな意志の疎通だった彼女らだが、久蔵が取った策は何と、

 『関係方面へ手を回してのテレビ中継とはねぇ。』
 『恐るべし、三木財閥。』

 表向きには各地でたけなわ学園祭と銘打った、ニュースショーの中のコーナー扱いではあったけれど。彼女らのステージがまるっと全部、使用楽曲の届けも完璧に通した上での、関東一円を網羅する格好で放送されようとは。プロ仕様の技術と素材で録画するのは勿論のこと、

 『…これって七郎次ちゃんですよね、勘兵衛様。』
 『ああ……。』

 出先でもワンセグってのがありますものねぇ、今時は。何処からでもいいからちゃんと観ておけとの、久蔵からの脅迫、もとえ要請メールがあったのでと、車に搭載されてあったカーナビからの視聴となってたりしたら万々歳。でもでも、やっぱり一番は、直接観覧してもらうことだから。平和な都内でありますようにと、当日までの10日ほど、乙女が揃って願かけするしかないのでしょかね?






  〜どさくさ・どっとはらい〜  10.10.20.


  *何だか倒れ込むような締めくくり方ですんません。
   後で修正 入れるかもです。

  *ちなみに、久蔵殿が袖丈が増すのを喜んでいないのは、
   あんまり背が伸びると
   兵庫さんを追い抜かないかが心配だかららしいです。

   「いやいやいや、それは大丈夫でしょう。」
   「そうですよ。
    第一、兵庫さんて昔だって久蔵より大きくなかったですか?」
   「……。」
   「え? 覚えてない?」
   「う〜〜〜〜んと。」

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